住まいに愛着をもつ住まい手とつくり手を取材する「WE LOVE THIS HOUSE」。
今回訪ねたのは、街のそこかしこに茶畑が広がる茶処、静岡県島田市で暮らす、Sさん家族(ご夫婦30代・長男7歳・長女5歳)の住まい。“子どもたちがのびのび遊べる家がほしい”と、去年旦那さんの転勤が終わるタイミングで、延床面積85.95㎡のマイホームを新築しました。
記事では、無垢材をふんだんに使った家づくり、長く住み続けるための工夫、お気に入りだというウッドデッキの話など、Sさん家族と、一緒に家づくりに携わった住宅会社『アクトホーム』の齋藤社長にもじっくりお話をうかがいました。
心地いいと感じたのは、
“呼吸する住まい”
―――はじめての家づくり。どのように進めていきましたか?
旦那さん:まずはいろんな会社の住宅展示場へ足を運びました。その中でも印象に残ったのが、アクトホームさんがつくる“木の家”。完成見学会に3回ほど参加させてもらい、そのたびに妻と良い空間だねと話していました。
奥さん:玄関に入った瞬間感じる、木の香りや木のぬくもりがとても心地よくて。こんな家で暮らせたら幸せだろうなと憧れる空間でした。我が家も天井、柱、床、棚、階段、建具、すべて無垢の木材を使ってもらい、クロスも柱の上から被せずに仕上げてもらいました。
齋藤社長:木は呼吸する素材。湿度の高い夏は湿気を吸収してくれて、湿度の低い冬は湿気を放出してくれます。そのため、呼吸がしやすいようにビニールクロスなどはできるだけ貼らずに仕上げるのがベター。無垢の木でつくる家は、結露のリスクも抑えられ、人体に害のある化学物質を含んだ建材も使わないため、建物の健康にも、人の健康にも良いのです。さらに、無垢材は木目が美しかったり、経年変化を楽しめるなど、その姿自体が豊かですよね。
無垢材をふんだんに使用した、深呼吸したくなるLDK。躯体を表した天井は、見た目も美しく、広々とした印象に。建物の中央で屈強に骨組みを支える大黒柱。できるだけ節がなく、まっすぐに成長した杉の木を厳選。
―――木の骨組みを隠さず施工するには、大工さんの高い技術が必要ですよね。
齋藤社長:そうですね。骨組みを見せて仕上げるには、素材をしっかり吟味し、木組みもきれいに納めなければいけません。アクトホームでは施工を下請けにまかせるのではなく、木の個性を知り尽くした自社の大工が責任を持って施工に携わり、家が建った後もなにかあればアフターメンテナンスに駆けつけます。ただ、既製品を組み合わせてつくるのではなく、職人の手技でじっくりつくること。代々受け継がれた技術を継承した“手間ひまかけた家づくり”が、私たちの基本です。
―――木はどんなものを使っていますか?
齋藤社長:地元・大井川流域で採取される杉やヒノキを使っています。家は地域環境に馴染んだ材を使うことで長持ちするもの。この島田市・大井川流域は“木都”と呼ばれるほど、昔から林業が盛んな地域で、木が生える森は年間2,500mmを超える雨と長い日照時間、冬でも雪が降らない暖かさなど、恵まれた気象条件が揃っています。戦後に植林され、今使いどきであるこの地域の木を使うことは森の健康に繋がり、ひいては大井川流域に住む私たちの安全な生活を守ってくれるのです。
また、家づくりで使う材は大井川の木以外にも、茶廃棄物を活用した塗り壁材『お茶薫る珪藻土』を地元のお茶農家さんと開発したり、地元の工芸家や陶芸家と手を組んだ家づくりも積極的に行っています。できるだけ地元の素材を使い、地元の職人さんの手技でつくる。それが地域環境の向上や地域経済の活性化にもつながると考えています。
調湿・消臭効果の高い『お茶薫る珪藻土』。人は寝ている間にコップ1杯分の汗をかくと言われることから、主として寝室の壁に施工することを提案している。 広大な茶園や全国的な名産地を有する、静岡県島田市。島田市には代表的な3つの栽培地があり、『島田茶』『金谷茶』『川根茶』と呼ばれている。
家を長持ちさせるために、
大切なこととは?
―――家づくりをしていく上で、大きなテーマはありましたか?
旦那さん:“長く住み続けられる家”というのは、ひとつこだわったポイントです。通常、1階にLDK を配置するのであれば、2階に子ども部屋と夫婦の寝室を設ける間取りが一般的ですが、我が家ではLDK +寝室を1階に、子ども部屋は2階にという配置にこだわりました。
奥さん:今はまだ子どもが小さいので、1階で家族みんなで寝ているのですが、子どもが寝静まった後、残っている家事をこなしているときでも、寝室が1階にあれば、すぐ子どもたちの様子を見に行けて安心です。さらに、私たちが年を取り、2階へ登るのがしんどくなっても、生活が1階ですべて完結できるように考えました。
齋藤社長:長く住み続けるためには、基礎の強度を高めるなど、構造的に長期で住める家を建てると共に、ご家族の暮らし方、ライフスタイルに順応できる間取りを考えることも大切ですよね。例えば、2階の子ども部屋も今は広々とした1つの部屋ですが、ゆくゆくは間仕切りを入れて2部屋に分割できるように設計。建物を支える構造躯体をしっかり造り込み、かつ壁や建具は動かせる空間として建てることが、住まいを長持ちさせるためには重要だと考えています。
将来2室に分けることも可能な2階の子ども部屋。アクトホームは子育て支援住宅認定制度の登録事業者でもある。 「齋藤社長とはLINEでもこまめにやりとり。レスポンスがとても早いのも助かりました!」とSさんご夫婦。
細部まで職人技が光る、
統一感のある吹き抜けリビング
―――家づくりを進めていく上で、特に苦労したポイントを教えてください。
旦那さん:吹き抜けのあるリビングをどのように構成していくかが一番の課題でしたよね。
齋藤社長:そうですね。まず、これだけ壁のない大空間だと建物の耐震性を高めるのが難しくて。さまざまな案を検討した結果、スチール製の水平ブレースを導入することで耐震性を強化。我々としても初めての試みでした。さらに、広い空間でのっぺり見えないように、階段の段板を見せるデザインにしたり、リビングの中央に大黒柱を配置するなど、空間にメリハリをプラス。勾配天井で使った杉とヒノキ、大黒柱はできるだけ節のないきれいな木を厳選しました。
開放感ある吹き抜けで、明るく風通しの良いリビング。杉材の階段は大工の手技を活かした造作で、視線の抜けるオープン階段。
―――家の中はどこを見ても統一感があり見事です。
奥さん:家具や建具も内装に合わせて、アクトホームさんにオーダーで作ってもらったものが多いです。なかでもお気に入りが、キッチンの吊り戸の食器棚。棚の寸法や取り付ける高さは使いやすくリクエストさせてもらい、開戸ではなく引き戸なので頭をぶつける心配もありません。
齋藤社長:家全体のテイストやコーディネイトを守るなら、細部まで職人がつくるべきだと考えています。安価な家具でよくみる、木目調のシートで覆われた家具はこの空間に似合わないですよね。この無垢の家には、ぜひ無垢の家具や建具を合わせてほしい。そんな思いから、今新築で家を建ててくださる方には、無垢のダイニングテーブルを1つプレゼントしています。オーダーの家具や建具の寸法やデザインは、お客さまと相談しながら自社の大工が手がけています。
奥さんお気に入りの引き戸の食器棚。持っている器の量や、身長に合わせてオーダーメイド。 階段下は収納スペースとして活用。リビングの一角には子どもたちも思い切り遊べる、畳風クッションフロアを設けた。
いつもの居場所は、
光や風、自然を感じる場所
―――マイホームのなかで、特にお気に入りのスポットを教えてください。
旦那さん:ウッドデッキです。家を建てるときは、実際どんな使い方をするかまであまり想像できていなかったのですが、住んでみて本当にあってよかったなと実感しています。天気のいい日は、ここで子どもたちが外の景色をスケッチしたり、去年の秋にはお月見もしました。ウッドデッキは通常、床がせり出しているデザインが一般的ですが、我が家は床と同じぐらい軒を深くしてもらったので、小雨ぐらいであれば洗濯物も干せるし、暑い夏は日陰になり快適に過ごせます。室内と庭とのつながりをゆるやかに繋いでくれる心地いい場所です。
リビングと庭をつなぐウッドデッキ。雨の日でも遊べる軒の深さが子育て家庭にうれしい。 屋根の上に太陽光パネルが乗せたゼロエネルギー住宅。玄関ポーチは、雨天時に傘を落ち着いて広げられたり、井戸端会議もできるゆとりのある設計。
奥さん:私はリビングの高いところに4つ並んでいる正方形の窓もお気に入りです。高い位置にあるので、カーテンを開けていても他のお家と干渉せず、キッチンで作業しているときも空が見えて気に入ってます。夜はちょうどお月さまが見えて綺麗なんですよ!
旦那さん:2階のカウンターテーブルでリモートワークをしているときも、この窓のおかげで眺めが良く、気持ちがいいです。この窓は齋藤社長に提案してもらったんですよね。
齋藤社長:そうでしたね。吹き抜けのような縦に長い空間はどうしても上部が暗くなってしまうので、高いところから光を入れることで部屋全体を明るくするとともに、南から北へ風の流れもよくなります。アクトホームでは、自然素材&自然エネルギーを取り入れ、“自然室温で暮らせる家をつくること”も家づくりの大切なテーマのひとつにしています。Sさん宅の窓はすべてペアガラスで遮熱コーティングをすることで無駄な熱が家に入らないようにしたり、壁や屋根の断熱材もより性能の良いものを取り入れて、省エネを意識。さらに屋根には、太陽光パネルも設置するなど、“創エネ”も導入し、自宅で消費するエネルギー量より、自宅で創るエネルギー量が多い=ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)を実現。太陽の光や熱、風といった自然エネルギーを最大限に活用できる、そんな快適な家づくりを目指しました。
吹き抜けを通して外の景色を臨める、2階のカウンターテーブル。ゆくゆくは子どものスタディコーナーとしても活用予定。 光と風を運んでくれる、リビングの正方形の窓。さらに、シーリングファンで空気の循環を促す。
内と外がゆるやかにつながる住まいで、
家族の新たな楽しみをみつける
―――マイホームに住み始めてから、日々のライフスタイルではどんな変化がありましたか?
旦那さん:庭ができたことで、暮らしが豊かになりました。芝生の手入れや、花の水やりなど初めての体験で、休みの日はホームセンターへ花を見に行き、庭に植えるのが、家族みんなの趣味になっています。マイホームができてからは、自然と子どもたちと触れ合える時間も増えたなと実感しています。
奥さん:以前、アパート住まいの頃はわざわざ公園に行かないと思いっきり遊べないような環境でしたが、今はすぐ庭で遊べるようになったので、子育てもだいぶ楽になりました。また、庭の一角に設けた家庭菜園も楽しいです。育てて、収穫して、食べる。この循環を感じられることは、子どもたちの食育にも繋がりますよね。
―――これからこのマイホームで、どんなことに挑戦してみたいですか?
旦那さん:住み始めはバタバタでなかなか余裕がなかったのですが、今年の夏はウッドデッキでごはんを食べたり、BBQやテントを張って庭キャンプを楽しんだり、花火をしたり。四季に応じて、いろんな楽しみ方を探っていきたいなと思います。
「今はじゃがいもととうもろこし、キャベツ、えんどう豆を育てています。収穫が楽しみです!」と奥さん。 玄関まわりを明るく印象づけてくれる外構の植栽。出かけるときも、帰ってきたときも心をホッと和ませてくれる。
文:北居る奈
写真:佐々木孝憲
VOICE FROM HOMEBUILDER
創業116年、大井川の流域で木の家をつくり続けてきた当社には、創業以来、大切にしていることがあります。それは家づくりを通じて、“いつまでも安心して過ごせ、心からほっとできる場所”をご提供すること。自然素材のぬくもり、清々しさに、光や風を採り入れる設計、現代的な機能性、さらにはご家族ごとの暮らしやすさを溶け込ませます。(アクトホーム 齋藤 光哲さん)
アクトホーム株式会社
“自然を感じる、持続可能な、静岡らしい家”を建てる
創業116年を迎える、静岡県島田市の住宅会社。大井川流域に生育する静岡県の優良木材を使った“木の家”を専門に、自然素材と自然エネルギーを生かした、地域に根ざした住まいづくりを提案。本社1階には、木の加工場を併設し、自社専属の大工も抱える。2015年には『日本エコハウス大賞2015・特別賞』を受賞、2022年には『6つ星ZEHビルダー』に認定されるなど、伝統を受け継ぎながら、耐震・省エネ・健康住宅・ゼロエネルギーなどの革新技術も積極的に採用する。