住まいに愛着をもつ住まい手とつくり手を取材する「WE LOVE THIS HOUSE」。
今回訪ねたのは、関東最東端の海辺の街・銚子市。4年前に完成したT邸は延床面積129.91㎡の平屋で、Tさん家族(ご夫婦34歳・長女10歳・次女8歳・三女5歳)が暮らしています。片流れ屋根の外観と広い庭が、まるでアメリカのどこかに建つ一軒家のようです。
家事の時短を可能にするたくさんのアイデアと、全館空調を取り入れた快適なお家。Tさんご夫婦がどんな風に家づくりに取り組んだのか、設計を担当した『ハヤシ工務店』設計部の越川さんを交えてお話を伺いました。
T邸がある銚子市は海に面した国内最大規模の水産都市で、周辺にはたくさんビーチが。朝からサーフィンをする人の姿もある。自慢の平屋は外観やフェンス、植えている植物まで随所にアメリカンなデザインを散りばめられている。
家づくりは共同作業
施主と設計士が一緒に夢を実現
―――ハヤシ工務店にお願いしようと思ったきっかけは何だったんですか?
奥さん:友人宅がとても素敵で『どこにお願いしたの?』と聞いたら、ハヤシ工務店さんだったんです。友人が『やりたいことを全部やってくれた!』と話していたので、自分が建てる時もハヤシさんがいいと思っていました。
旦那さん:一番良かったのは、設計士である越川さんが担当してくださったこと。デザインや構造を理解している越川さんに直接相談できたので、希望が伝わっているという安心感がありました。
越川さん:そう言っていただけてうれしいです。Tさんご夫妻はしっかりとしたビジョンを持っていらしたので、私は性能を守りながら、お二人の夢を実現させるためにできることを全部やろうと思っていました。この家が完成したのは、お二人の力も大きいと思いますよ。家づくりはお施主さんと私たちの共同作業ですから。
奥さん:私たちは良いチームだったんですね!細かくやり取りを重ねて、夢を実現していただいたので、本当に後悔しているポイントが一つもないです。建てた後も追加工事や機械の調整など、連絡すればすぐに対処してくださって。建てて終わりじゃないというところもすごく心強いです。
越川さん:たくさんご依頼いただきありがとうございます(笑)。弊社のスタッフには“家を建ててからが本当の付き合い”という社長の言葉が浸透しているんです。これからもずっと、お付き合いさせてくださいね。
設計を担当したのはハヤシ工務店の一級建築士・越川有紀さん。インテリアデザイナーからキャリアをスタートした越川さんは、構造とデザイン性の両方から家づくりを考えるプロ。Tさんご夫妻も「越川さんでよかった!」と大満足。
家族団らん、のち夫婦二人暮らし
ライフステージに合う平屋
―――家づくりの一番のテーマを教えてください。
奥さん:家族が団らんできて、老後も楽に暮らせる家です。リビングを家の中心に配置して、家族がいつも顔を合わせるようにしました。リビングには小上がりとキッチンもあり、長女と夫がソファでテレビを観ているかたわら、小上がりでは次女と三女がおままごと、私はキッチンで家事をしながらその様子を眺めるというように、同じ空間にいながらそれぞれが好きなことをして過ごすのが心地よいです。またうちは娘3人なので、将来的には夫と二人暮らしになることを想定して平屋にこだわりました。以前は2階建てに住んでいたんですが、階段は危ないし、掃除や洗濯を干すのも大変で。子ども部屋は奥にまとめて、娘たちが巣立ったら手前のエリアだけで生活しようと考えています。
越川さん:お子さんのお部屋には、仕切りとして可動式の棚を採用しました。今は3部屋に区切っていますが、棚を壁側に寄せてしまえば一つの大きな部屋として使えます。
旦那さん:小さな屋根裏部屋は僕の希望。今は物置ですが、老後は秘密基地として使う計画です。妻はもともと教員をやっていて家事の時間が取れなかったので、回遊動線やリビング収納など、時短アイデアもふんだんに盛り込みました。
奥さん:とにかくSNSを検索して、時短やインテリアのアイデアを収集。間取り作成アプリやパースが作れるソフトを買って、自分で家具の配置をシミュレーションもしましたね。そのなかで構造的にできること、もっと良い案があれば越川さんに提案していただいて。
越川さん:リビング収納やマグネットの壁は奥さんのアイデアでしたね。デザインは全体的にインダストリアルな雰囲気がお二人の好みだったので、黒をアクセントカラーに、木や金属を取り入れて仕上げていきました。
インテリアは黒がアクセントカラー。家族が集まるリビングは庭のウッドデッキまでつながっており、キッチンから一望できる。ゆくゆく夫婦二人暮らしになることを考えて、子ども部屋は可動式の棚で区切れるように。
―――家づくりで特に大変だったところはありますか?
奥さん:予算とやりたいことのバランスを取ることですね。越川さんができること、できないこと、折衷案などその都度提案してくださったので、毎回納得のいく選択ができていました。たとえば庭の植栽や芝生は、予算削減のために夫が頑張ってDIYしてくれました。プロの仕上がりにはかないませんが、自分たちで作り上げたことですごく愛着を持てています。
旦那さん:実はリビングの広さも90cmほど削ろうかと越川さんに相談したんですが、そこは広いほうがいいと言ってくださって。結果、狭くしないで本当に良かった。予算を抑えられるところはちゃんと提案してくださるし、利益よりも僕たちのことを考えてくださっているんだなと感じました。
越川さん:私は金額も把握しているので、全体の雰囲気やコスパを考えて意見をお伝えしていました。家屋の構造としては、庇(ひさし)が難関でした。弊社はパッシブデザインといって、太陽の熱や光、風といった自然のエネルギーを建物に利用する設計手法に力を入れています。庇は夏の日差しを遮り、冬は日射取得を最大限にするために重要な意匠なので、デザイン性を保ちながらも、安心安全な設計にするために時間をかけました。
奥さん:外観は家の中でも特に気に入っているポイントの一つです!越川さんに提案してもらった横葺きのガルバリウムと片流しの屋根は、見た瞬間に一目惚れして即決しましたよね。
越川さん:ガルバリウムは潮風に弱いですが、ここは内陸なので心配ありませんでしたし、汚れを落としやすく耐久性もある材なので採用できて良かったです。白木だと和風になってしまうので、軒にレッドシダーを使うことで、インダストリアルな雰囲気が出せました。
愛するマイホームに家族全員でハウスハグ!太陽光を調整する役割を持つ庇。軒にガルバリウムと相性の良いレッドシダーを採用することでインダストリアルな雰囲気に仕上げた。
生活に革命を起こした
回遊動線と全館空調
―――家のお気に入りポイントを教えてください。
奥さん:家事効率アップのため、回遊動線のある間取りにこだわったのですが、なかでも気に入っているのが4畳分の広さがあるリビング収納。ウォークインになっているので、買い物から帰ってきてすぐに備品をストックすることができます。またランドセルや上着といった日常で使うものも収納していて、家を出る時も帰ってきた時もここを通ることで支度が整います。
越川さん:リビング収納は奥さんの希望だったんですが、画期的なアイデアでしたね。弊社でも、事例としてよく紹介させていただいています。テレビ周りの配線も全部ここに入れることで、表をすっきりと見せることもできました。
奥さん:どうしても欲しかったのがランドリールーム。洗濯が家事の中で一番嫌いだったので、洗って、干して、畳んで、収納するまでのすべてを、一つの場所で完結できるようにしました。家族が普段着るものは、壁側の棚にすべて収納。バスルームもここなので、脱いだものは洗濯機に、お風呂からあがったら棚から新しい服を出して着替えられるので効率的。お風呂はガラス張りなので、娘だけで入浴させて、私は洗濯しながら見守ったりしています。将来的にはカーテンをつけないと怒られますけどね(笑)。一番日当たりの良い南側に作ってもらったのと、全館空調のおかげで室内干しでもしっかりと乾くのがうれしいです。
越川さん:一般的に水回りは家の北側に持ってくるものですが、最初から室内干しができる場所を希望されていたので、思い切って南側に作りました。お風呂にも自然光がたっぷりと入って、とっても明るい水回りになりましたね。
旦那さん:庭は家族の遊び場として一年中活躍しています!テントを張ってキャンプをしたり、夏は直径4mの大きなプールを設置して、BBQをしながらパーティ。うちの庭が快適すぎて、本物のキャンプ場にまだ行っていません(笑)。娘たちがよく遊んでいる本格的な遊具は、大工である義父がコロナ禍に作ってくれたんですよ。庭を挟んで向かいは僕の実家なので安心です。おかげで公園に行けなかった時期も、子ども達はストレスなく過ごすことができていました。
奥さん:キッチンから庭が見えるので、家事をしながら子ども達の様子をいつも見ています。女の子3人だから一緒にお料理してくれるかなと思って、キッチンも奥行き1mと広めのアイランドキッチンにしました。最近は『お手伝いするする!』言って一緒に立つことも多いですし、家族の誕生日にはケーキをみんなでデコレーションするのが恒例になっています。夫も料理が得意なので、みんなで一緒にいろいろなものを作りたいですね。
4畳のウォークインクローゼット、洗濯から衣類収納までのすべてを一つにまとめたランドリールームなど回遊動線をつくることで、奥さんの希望だった家事の時短を実現。
―――家の中のどこに行っても暖かいのは、全館空調のおかげですね。
旦那さん:本当に家が天国のようになりました。パッシブエアコンを入れてもらったのですが、家中ずっと同じ温度なので、お風呂あがりに暑い!寒い!なんてこともありません。電気代はオール電化と合わせて、ひと月1万円から1万5千円ほど。そんなに高くはないと思います。
越川さん:屋根断熱と基礎断熱、そして庇による夏場の遮光と冬場の日射取得。こうした家の保温・保冷性を上げるパッシブデザインとの合わせ技で、無駄な光熱費を抑えています。パッシブエアコンの空気はダクトを通って床下から出てくるので、冬場は床暖房のような効果もありますね。
奥さん:今日はみんな厚着ですけれど、普段は冬でもTシャツ一枚で過ごしているんですよ。子どもたちは裸足で走り回っています。おかげでペットのトカゲたちもすごく快適そうです。
全館空調の導入で、家のどこにいても一年中快適な室温に。おかげでお子さんもペットのトカゲも元気いっぱい。
家族が帰ってきたくなる
実家であり続けたい
―――マイホームを舞台に、どんな未来を想像しますか?
奥さん:私は仕事を退職して、念願の家族時間をゆっくりと楽しんでいます。三姉妹と料理やお菓子作りをしたり、休みの日には庭でアクティブに過ごして、たくさん思い出を重ねていきたいですね。いつか孫ができたら『おじいちゃんとおばあちゃんの家に遊びに行きたい!』と言ってもらえる実家でありたいし、娘たちにもいつでも帰ってきて欲しい。家族をいつでも迎え入れられるように準備しておきたいです。
旦那さん:いつか娘がみんないなくなってしまうと思うとさみしいですが、夫婦も仲が良いので、二人の生活も楽しみにしています。二人になってもやっぱり…キャンプがしたいですね!
娘さんたちとキッチンに立つことも増えたという奥さん。庭には大工をしている奥さんのお父さん特製の遊具もあり、一番のテーマだった“家族団らん”がたのしめる家が完成。
文:井上麻子
写真:田中誠
VOICE FROM HOMEBUILDER
“一生涯お付き合いする”をモットーに、お客さまの“家守”となるのが私達の使命。お施主さんご本人のあとにはそのお子さん、さらにはそのお孫さんの代まで、永く住めるような家づくりを目指しています。住宅業界で最先端をいくドイツにならい、自然災害や環境の変化に耐える最先端の技術や考え方を採用。自然の力を家づくりに取り入れる『パッシブデザイン』もその一つです。20年後の未来でも、お客さまが安心して快適な暮らしができるよう、全力でお手伝いいたします。(ハヤシ工務店 林 一政さん)
株式会社 ハヤシ工務店
100年間受け継いできた大工の技術、環境変化に対応するパッシブデザイン
明治後期、千葉県旭市で初代・林子之助が棟梁に弟子入りしたことから始まったハヤシ工務店。五代目となる現代表は、全国工務店協会(JBN)と連動して、千葉県の若手大工の育成にも積極的に取り組んでいます。“一生涯お付き合いする”をモットーに、子どもや孫世代まで住める質の高い家づくりを実践。ドイツの先進的な技術に着目し、災害に耐える頑丈な構造や、自然の力を最大限に利用することで環境負荷を減らし、生活コストを抑える『パッシブデザイン』を得意とする。本社オフィスには『カフェ ロハス』を併設し、周辺住民の憩いの場にもなっています。